行動経済学:ゴール勾配仮説の復活~顧客行動を加速させる秘訣~(引用論文のリンクあります)

行動経済学の本を読んでいたりすると、要約された形で内容が書かれており、引用元がどう書いているのか気になることがあります(本の内容を信用していないわけではないですが、人によってとらえ方が変わるので、1次情報を見たいと思ったからです)。

今回はゴール勾配に関する論文の内容を見てみます。Citationが1000を超えているのですさまじい論文です。(2024.08.15現在)
下記本のP20にある内容の元論文です。

引用元:
Kivetz, R., Urminsky, O., & Zheng, Y. (2006). The Goal-Gradient Hypothesis Resurrected: Purchase Acceleration, Illusionary Goal Progress, and Customer Retention. Journal of Marketing Research, 43(1), 39-58.
The Goal-Gradient Hypothesis Resurrected: Purchase Acceleration, Illusionary Goal Progress, and Customer Retention by Ran Kivetz, Oleg Urminsky, Yuhuang Zheng :: SSRN
※オープンアクセスなので誰でも読めます。

論文要約

マーケティングの世界では、どのように顧客の購買行動を促進するかが重要な課題です。2006年に発表された研究「The Goal-Gradient Hypothesis Resurrected: Purchase Acceleration, Illusionary Goal Progress, and Customer Retention」(ゴール勾配仮説の復活:購買加速、幻覚的なゴール進捗、および顧客保持)は、報酬プログラムが顧客の行動にどのように影響を与えるかを詳しく探っています。

ゴール勾配仮説とは?

ゴール勾配仮説は、もともと動物行動学に由来するもので、動物が報酬に近づくにつれて努力を増すというものです。この仮説を人間の行動に応用したのが、この研究です。彼らは、報酬が近づくと顧客の購買頻度が上がることを確認しました。

例えば、カフェで10杯のコーヒーを購入すると1杯無料になるリワードプログラムを利用する顧客が、無料コーヒー獲得までの残りの購入数が少なくなるにつれて、コーヒーを購入する頻度が高くなることを発見しました。また、インターネットで音楽を評価するリワードプログラムでも同様の傾向が見られ、報酬に近づくと評価の頻度や持続性が増しました。

研究結果の具体的なポイント

  • 購買加速:報酬獲得に近づくと、顧客は購買頻度を増加させます。
  • 幻覚的なゴール進捗:例えば、12スタンプのカードに最初から2つのスタンプが押されていると、実際には10回の購入が必要でも、顧客はゴールに近づいていると感じ、購入を加速させます。
  • 顧客保持:最初の報酬に向けた加速傾向が強い顧客は、プログラムに再度参加する確率が高く、再参加時にも同様の加速を示します。

実際にどのように活用すべきか?

この研究結果をもとに、企業は次のようなアプローチを取ることで顧客の購買行動を効果的に促進することができます。

  1. 報酬プログラムの導入:シンプルなリワードプログラムを提供するだけでなく、報酬に近づく感覚を顧客に持たせる工夫が重要です。例えば、最初からいくつかの進捗があるように見せる「幻覚的なゴール進捗」を導入することで、顧客の購買意欲を高められます。
  2. 顧客の再エンゲージメント:一度報酬を獲得した顧客が再度プログラムに参加するように促すために、次のゴールに向けたインセンティブを提供しましょう。報酬を獲得した直後の一時的なモチベーションの低下を考慮し、新たな目標設定が重要です。
  3. データの活用:顧客の行動データを分析し、どのタイミングで加速が見られるかを特定し、効果的なプロモーション戦略を策定します。

まとめ

この研究は、顧客の購買行動を理解し、適切に誘導するための有力なツールとして「ゴール勾配仮説」を提供しています。報酬プログラムの設計において、顧客がゴールに近づくと感じさせることが、購買頻度を高め、顧客保持を促進する鍵となるのです。

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